冷たい空

その猫は空をみあげて いつも

   「青い空は おりてきてくれにゃい 冷たい」とおもっている

 

「あはは こいつバカだあ 田んぼに落としちゃえ」「何にも言わないなあ いつも」

    一人の子供が田んぼに突き落とされ 泥だらけにされている 子供達はあざ笑う

   泥だらけの子供は そのまま 無言で田んぼの中を歩き出すズボッ ズボッ 無心に

 

   そこに 学校帰りのその子の姉が 通りがかり 驚いて声を張り上げ田んぼに駆け寄る

    子供達は  蜘蛛の子を散らすように逃げ出す

 「ハヤト もう大丈夫だから  こっちに戻っておいで お百姓さんに見つかる前に!」

    姉を見つけたハヤトは 笑顔をみせて 田んぼから上がってくる 

 

   姉は 近くの水場に連れて行き 泥を洗い落とす  足の泥を落とすと沢山のヒル

   血を吸っている とても痛々しい 水の勢いで吹き飛ばし 血が出たまま 家に連れ帰り

   風呂場で手当てする  ハヤトは笑っている  生傷が全身に いつもたえない

 

   母親はハヤトが家を脱走してしまうと「あ〜ハヤトがまた出て行ってしまったあ」

   と 言っていつも放置する  ハヤトを探すのはいつも姉だった。

   ボロボロのママチャリ に乗ってハヤトをいつも探しにでかける

    青く冷たい空の下で

 

   ハヤトはいつも一人 イジメられる時と警察に保護された時を除いては

     ハヤトは知的障害者  多動性自閉症児だった 

   母親は心の貧しい人だったので ハヤトの事はほったらかしで

    いつも 姉がハヤトと一緒だった

   生け花の先生で  家に生徒が習いにくると 二人は追い出された

   夏はボロチャリに二人乗り 冬は 手を繋いであてのない散歩に出かけた

   雪の中 二人を受け入れてくれる優しい人は古い因習ただよう田舎の村には

   誰もいない  冬の冷たい空は いつも灰色だった。数キロ離れたスーパー

   小さなゲームセンター 国道沿いの自動販売機小屋 雪がしのげればどこでもいい

  ハヤトは多動だったから同じ所にいられない お菓子や食べ物が無くなると

  すぐ飛び出して行ってしまう。そこに居合わせた子供達は 「親なし子 キチガイ

  と手を頭に持っていきクルクルまわすのが日常で 大人達は無視する 

  二人にとって空はいつも冷たいのだった

 

    母親は心がとても貧しく虚栄心が異常に強い人だったので宗教にはまった

    特に家庭崩壊の原因となった 現在与党の大きい宗教と小さな新興宗教

    色々はまり  その度に大きい宗教と小さい宗教でもめごとがおきる

       母親はとてもいい加減だったので 大きな宗教の人が家にくると

       また大きな宗教にもどり  街で小さな新興宗教に声をかけられると

        宗派関わらず すぐ入ってしまい  大きな宗教にばれるまでそこにいる

        それを何度も繰り返す  新興宗教の人が  大きな宗教の文字曼荼羅

          どこかに持ち去り焼く 大きな宗教の人が小さな新興宗教のお守りや

          シンボル  教祖の写真をどこかに捨てる   そんなミニ宗教戦争

          ハヤトの家では日常茶飯事で  ハヤトも姉も気にしなかった

          母親は底抜けに色々と残念すぎる人だった

               

          そんな冷たい空が何度何度もすぎた頃 姉は出稼ぎに行くことに決めた

          母親のミニ宗教戦争も一段落し ハヤトを真面目に見るようになったため

          貧しさと空の冷たさに嫌気がさした姉は 都会に飛び出したのだ

          その日 家にいた猫にサヨナラを言って出稼ぎに姉は出ていった

           猫は 空を見上げていた